【書評】FACTFULNESSを読んで

FACTFULNESS 大学を卒業して以降、どうしても仕事関連か娯楽小説や趣味の歴史本しか読まなくなって来たので、たまにはリベラル・アーツ系をと思い立ち今年初頭に流行っていた「FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣」を読んだ。

 世界はとても良くなった。平均寿命が短命な国は無くなり、極度の貧困に喘ぐ割合は最も低くなった。そんな良くなった世の中を何故か悪く見てしまう10の思いこみを解きほぐすのがこの本。

1988年の世界(縦が平均寿命、横が1日当たりの収入)

1988年の世界

 1988年では世界人口TOP2の中国とインドは極度の貧困に喘ぐレベル1。そんなレベル1の国では平均寿命が40歳を下回る国すらあった。

2018年の世界

2018年の世界

 2018年では極度の貧困に喘ぐ国でも大半は平均寿命が60歳を超え、レベル1の生活をおくる人は世界人口70億人中10億人になった。

10の思いこみ

  • 分断本能
  • ネガティブ本能
  • 直線本能
  • 恐怖本能
  • 過大視本能
  • パターン化本能
  • 宿命本能
  • 単純化本能
  • 犯人捜し本能
  • 焦り本能

分断本能

 本書では女性1人当たりの子供の数、乳幼児の生存率をとっても世界は先進国と途上国に分断され……ていたのは昔。2017年には世界の85%が昔の先進国の枠に入り、途上国の枠に残っているのは6%しかないと説明している。

 人は正義か悪か、自国か他国か、裕福か貧乏かの二項対立で考えてしまう。その思いこみを、分布を見れば分断など無い平均に気をつける。最上位層と最下位層の極端な比較に気をつける。実際は全然違うのに1日1ドルの層と4ドルの層と16ドルの層も上から見ると一括りに見えてしまうことを思い出す。

ネガティブ本能

 犯罪が減りましたではニュースにならないのでショッキングなニュースばかり報道することで犯罪が増えているような気になる。日本でもよく聞く話。アメリカでは1990年に1450万件あった犯罪件数が2016年には950万件になっている。しかし、人々の認識では犯罪が増えている。

 悪いは現在の状態、よくなっているは変化の方向で状態と方向は両立し得る。良い出来事はニュースになりにくい。悪いニュースばかりでも悪いことが増えたとは限らない。過去は美化される。

10ある思い込みの流れ

 本書では上記のように10ある思い込みを国連や世界銀行のデータを用い訂正していっている。例:世界人口は増え続け地球が持たない→既に増加は穏やかになっており、2100年頃には横ばいになる。

同じ国でも生まれる年によって国が違うも同然

 世界保健チャートというものも紹介されていた。1921年のスウェーデンの所得水準と平均寿命は2017年のザンビアである。1948年の水準は2017年のエジプト。1975年の水準は2017年のマレーシア。スウェーデンも昔から豊かで健康な国だったわけではない。

 年によって生まれた国が違うという見方は面白い。そして気付くのはバブル崩壊後の日本の変化の無さだ。ハガキの郵便料金は30年間で41円→50円→52円→62円→63円に上がった。でも、戦前の1銭5厘、戦中の2銭から5銭、団塊の世代が成人するまでの7円と比べれば変化の割合は小さい。

 これが2000年代から一気に成長してきた中国ならどうだろう。日本の30歳に比べ中国の30歳は子供の頃から今に至るまでで凄まじい変化を体験したに違い無い。

習ったデータが古い程インパクトがあるが筆者の実体験は別格

 正直、個人によって本書の感想は異なる。自分が習った世界に関してのデータが古ければ古い程にインパクトがある一方、データを最新に更新し続けている層なら読んでも何を今更となる。10の思いこみもいくつかは間違えない、騙されない為のテクニックとして普通のことだ。

 それでも著者であるハンス・ロスリング氏が救急救命室に配属されて血まみれのパイロットを診た話。世界で最も貧しかったモザンビークに赴任して亡くなる子供の数を数えていた話、貧しい村で発生した謎の病を防ぐ為に市長の道路封鎖に頷いたことで大変な事故が発生した話。

 著者の話はどれも大変興味深かった。今では周知されている赤ちゃんの危険なうつぶせ寝が1960年代は推奨されており、乳幼児突然死症候群を防ぐ為にベビーカーで寝ている赤ちゃんをわざわざうつぶせにするシーンはたまげた。そして、スウェーデン医学界がうつぶせ寝の間違いを認めて方針を変えたのが1992年だったことにさらに驚いた。

 実際、母にあおむけ寝かうつぶせ寝か私はどっちで寝かされていたのか尋ねたほどだ。27年前の常識にビックリだ。

投稿者: (公開日:/最終更新日:)

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