電撃文庫副編集長が語る「小説の書き方」

ベストセラー小説の書き方 (朝日文庫) 毎年5,000作品を上回る応募が集まる最も熱い新人賞「電撃大賞」を主催する電撃文庫の三木一馬副編集長がTwitterで「小説の書き方」(命名「要素の相対論」)を論じている。

 電撃文庫の『とある魔術の禁書目録』『灼眼のシャナ』『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』『電波女と青春男』『乃木坂春香の秘密』『魔法科高校の劣等生』を担当する編集者の話なので、特に「電撃大賞」に初めて応募しようと思っている方は要チェック。

 一応、ポイントだけ抜き出すと「通常、本当ならここではこういう自然な対応を取らざるを得ないけど、物語が盛り上がるのはきっとこうだ!!と思ったら、絶対そっちを選ぶと良い」。自身の信じる部分に従って書く行為はオリジナリティを強める。作者の特徴になる。

 その後の「つじつま合わせ」に心を配る。「不自然さ」は「自然」の中にあるから不自然。往々にして書きたいシーンは「不自然なシーン」だが、前後の「自然なシーン」をキチンと書くのが重要。

 文章表現は中盤までは世界観説明、キャラクター描写を「親切」に書く。でも、肝心の部分はわざと「不親切」に描く。恋愛やラブコメ的な物語では「不親切」な表現の前に、そのキャラクターが相手のことを好きになっているだろうな、と思われる部分を「親切」に描くとのこと。

作品をよりエンターテイメントにするとき、「自然さの演出」と、「不自然さの演出」に気をつけてみましょう。この二つは共存可能で、適材適所で配置できるとより質の高い作品となるはずです。ストーリーやキャラクターの言動、世界観設定、キャラに付随する特殊能力など、すべてに応用可能です。
ストーリーの盛り上がりを例にとって説明してみます。自然さとは、言い換えれば当たり前な展開です。主人公いたとして、その人物がどのように過ごすことが当たり前か、主人公の境遇が過酷だとするなら、どのような状況が当たり前なのか……という皆さんの最大公約数を引き出す行為です。
そして不自然さとは、言い換えれば外連味です。外連味は、カッコ良さとか、見栄えとか、もっというならその場のノリという変換も可能ですあくまで自分が考える「不自然さ」なので、ご容赦願います)。
自然と不自然には相対的な差がありまして、そのレールに乗っている(つまり物語を読んでいる)人物はその相対差を『物語の起伏』と感じます。この起伏が大きい、つまり高低差があると、レールに乗っている人間も「なんか上にいったり下にいったりしてる!」みたいに気づきますよね? それが演出です。
次に、これは自分の作品なのですから、そこに個性も盛り込みましょう。通常、本当ならここではこういう自然な対応を取らざるを得ないけど、物語が盛り上がるのはきっとこうだ!!と思ったら、絶対そっちを選ぶと良いです。
それは天啓でも閃きでも、今までの経験からでも、なんでも良いのですが、自身の信じる部分に従って書く行為とは、作品のオリジナリティを強める働きがあります。誰とも違う変化こそが、その作者ならではの特徴になり、結果読者への印象を強めます。
もちろんその個性の選択が人気を左右するので繊細で難しい決断なわけですが、起伏なく平坦な作品よりも個性がある作品のほうが、創作としては一歩前進ですので、止める必要はありません。
で、むしろその後に生じる「つじつま合わせ」に苦労しましょう。まず起伏ありき、矛盾はあとで解決、この方が切れ味鋭い作品がうまれるはずです。矛盾解消のために四苦八苦することは、「改稿スキル」の向上につながって良いです。
具体例。不良がクラスでいじめをしているとします。みんなは普通はびびって何も言いません。これが自然。しかし、ここで主人公は不良に「やめろ」を言葉を発する。これが不自然。不自然なシーンでは、無理矢理な展開でも、そっちのほうが格好いいじゃん!と思ったら、それは譲らないことが大事です。
ただ、そこだけ気合いを入れて盛り上げようと思っても、実は物語自体があっと驚く展開になったわけではありません。相対論的に考えると、実は「盛り上がり前に描かれている内容」のほうが重要です。
それまでをちゃんと「自然」に書けているか――読みやすさだったり、世界観の丁寧な説明だったり、親切な誘導だったり。『いじめを黙認する教室』というのが「自然」である状況を、盛り上げる前に如何に描いておくか。その相対差、高低差が『起伏』になります。
なので、できるかぎり前ふりは手を抜かないようにしないといけません。忘れないようにしたいのは、「不自然さ」は、「自然の中にある異端」だから不自然なのです。不自然があちこちに存在したら、それは相対的な尖りが感じられず、とっておきの武器としては機能しません。
往々にして、書きたいシーンというのは「不自然なシーン」のはずです。しかし書きたいものだけを気合い入れて書いても、物語の起伏=エンターテイメント性はでないのです。その周りにある高低差を意識し、「自然なシーン」もちゃんと描くことが重要です。
「読みやすさ」や「わかりやすさ」は、バカにできません。それがあってはじめて「難解な比喩」の効果が発揮されるのです。
あとすこしだけ、文章表現について。こちらでは「親切」と「不親切」で相対論を。冒頭?中盤まで世界観説明、キャラクター描写はなるべく親切に書いておきます。そして肝心なこだわりの部分は、わざと不親切に描くのです。とくにこれは人間関係の描写で威力を発揮します。
具体的には恋愛やラブコメ的な物語では、『好き』という言葉で『嫌い』を表現できたり、『嫌い』と言ってるその本心が実は『好き』だったりと、かなり一言一言が大事になってきます。
「好きだ」と言うのは簡単ですが、あえて不親切に「ようやく、君の姿が見えたかも」とか言ったりするわけです。そんな「不親切」な表現の前に、そのキャラクターが相手のことを好きになっているだろうな、と思われる描写を「親切」に描く。そこが大事なのではないかと思う次第です。

投稿者: (公開日:/最終更新日:)

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