インターネット回線

昨今のIT推進により、ブロードバンド化が遅れていると言われてきた日本もネットワーク環境が整い、国連機関の国際電気通信連合(ITU)の2002年時点の世界のブロードバンド利用実態報告書によるとブロードバンド利用料金の平均金額が最も安値なのはなんと日本であったという。

前提条件として毎秒100kbpsの通信速度を実現するのに必要な費用として調査されたのを念頭に置いておくべきである。ブロードバンド普及率においては世界一のIT先進国として名高い韓国がトップであり、日本(10位)、米国(11位)は共に普及率では水をあけられているのが現状だ。さて、ここでブロードバンドに着目することにしよう。

ブロードバンドとは

そのまま日本語に置き換えると広帯域という意味であるが、一般的には高速なインターネット接続として認知されているように思われる。インターネットではTCP/IPと呼ばれる規約により物理的通信手段でやり取りされているが、通信手段にはダイヤルアップ、ISDN、ADSL、CATV、光ファイバーなど多様なサービスが存在しており、その中でも数百Kbps-Mbpsクラスの帯域を提供できるADSL、CATV、光ファイバーなどの一般的にブロードバンドと呼ばれているサービスを取り上げていきたい。

ADSLとは

Asymmetric Digital Subscriber Line(非対称デジタル加入者線)の略で従来の電話回線(メタルケーブル)を利用するxDSL技術の一種で、最も普及している方式である。「非対称(Asymmetric)」の名が示す通り、データ転送の向き所謂ダウンロード(下り)の通信速度とアップロード(上り)の通信速度とでは最高速度が違っている。 この非対称という問題は一般的なインターネットの利用形態である送信するデータよりも受信するデータの方が圧倒的に多いということからもあまり問題にはなら無いと言える。本来、音声通信に利用するメタルケーブルは周波数帯域のごく一部(4KHz帯域)しか使われておらず、ADSLはその4KHz帯域よりも高周波数の帯域幅を利用してデータ通信を行うものである。

ADSLの普及までには......

国内のADSLの普及は大きく遅れた。その原因は、国内で市内ケーブルを独占するNTTがISDNサービスを積極的に推進してきたからである。ISDN回線とADSL回線は敷設ケーブル束内で周波数が大きく干渉し合うために共存が難しく、NTTはADSLへのシフトを躊躇し、より高速な次世代回線「光ファイバー(FTTH)」計画を推進してきた為である。

しかし、ISDNに比べて最大20倍以上も高速なADSLサービスが普及の兆しを見せ、2000年にNTT東日本が公正取引委員会から独禁法違反の警告を受けた事をきっかけにNTTは局舎の開放を進めた。局舎開放については同年の日米通商交渉でNTTの接続料が問題視され、この米国政府からの圧力が最大の要因だったいう話もある。ADSLは局内にADSL収容装置といった機材が必要であり、この局舎開放は大変、ADSL普及に意味のある事であった。

ADSLの速度と問題点

国内では当初G.Lite仕様のADSL(上がり通信速度512kbps、下り通信速度1.5Mbps)であったが、8Mbps、12Mbps、24Mbps、26Mbps、今年の11月5日にはイー・アクセスが下り最大40MbpsのADSLサービス「ADSLプラスQ」を開始しました。NTT東日本も「フレッツ・ADSL モアII」を12月17日から下り最大40Mbpsに高速化すると発表し、ソフトバンクも 下り最大45Mbps、上り最大3MbpsのADSL接続サービス「Yahoo! BB 45M」を2004年1月下旬より開始すると発表しました。最も、ADSLの場合は距離等による干渉が有り、理論値に達しないのは確実である。24M、26Mであってもかなりの好条件が揃わない限り20Mbpsを超える事は難しく、株式会社インターネット総合研究所が8万件以上のサンプルを取り行った調査でも 平均では4,5Mbps程度しか速度は出ていないのである。40Mの場合も同様であろう、現にイー・アクセスは説明会において、線路長550mの環境で36.5Mbpsの速度が実現できたとの事であり、技術説明会においての最大速度がその程度ではユーザーの最大速度はもっと下回る事だろう。

自分が数件の速度を見たところ、NTT収容ビルからの距離が1kmを切っている比較的好条件のユーザーですら、 30Mbpsに届いてはいなかった。それに上がり速度も下り速度に比べほとんど向上しておらず、今回のYahoo! BB 45Mやアッカ・ネットワークスが来年一月下旬より予定している40Mサービスなどで上がり最大3Mbpsとしたものの情報通信技術委員会(TTC)の会合では既存回線への干渉が大きいとされ、TTCでの議論の方向性によっては上がり速度は最大1Mbpsでのスタートとなるかも知れない。

ADSLの利点

  1. 既存のアナログ電話回線を利用するので導入費用が安く済む。
  2. 建物自体には工事が必要無い為、CATVインターネットや光ファイバーと違い集合住宅でも個人の一存で利用可能。

ADSLの欠点

  1. ISDNと違い局から離れている場合はサービスが受けられない。
  2. ISDNを利用していた場合は回線契約の変更または新規の契約が必要。
  3. NTT収容局までの電話線が光ファイバーである場合は利用できない場合がある。
  4. 速度は局までの距離に依存する。高圧線や電車の線路も影響。最悪の場合、全く接続できない場合もある。

CATVインターネットとは

CATV(ケーブルテレビ)の広帯域回線を利用した高速インターネット接続サービス。CATVインターネットでは通常、基幹網には光ファイバー、家庭内への引き込み線には同軸ケーブル(銅線)が使われている。同軸ケーブルは建物の入口である保安器を通じて、TV受像器につなぐホームターミナルとPCにつなぐケーブルモデムに接続される。 郵政省の施策によりCATV業者は一地域一業者とされているため事業者ごとにサービス内容や料金、申込方法、工事方法などが違うという注意すべき点もある。業者によっては下り最大30M?数百kbpsほどの差がある。

光ファイバーとは

よくFTTHとも言われるが、FTTHはFiber To The Home の略であり、家庭で使う光ファイバーという意味である。現在は、光ファイバーを用いたインターネット接続の総称として利用されている。光ファイバーケーブルは、電気信号を流して通信するメタルケーブルと比べて信号の減衰が少なく、超長距離でのデータ通信が可能である。また、電気信号と比べて光信号の漏れは遮断しやすいため、 光ファイバーを大量に束ねても相互に干渉しないという特長もある。しかし、光ファイバーでの接続の場合、100Mとは言っているもののその実は100Mbpsの光ファイバーを複数ユーザーで利用するベストエフォート型のサービスを提供している為、ADSLと違い距離による通信速度の影響が無いとは言え、実際には100Mの通信速度が常時出る事は無い。

料金はADSLに比べ割高である。初期費用に関してはADSLでは事実上NTTの局内工事しか必要ありませんが、光ファイバーの場合は必ず屋内への引き込み工事が必要であるのでそれほど安くはならないと考えられる。月額基本料金に関してはユーザー数が増加すれば低料金化は進むことでしょう。総務省の予測では2005年度でADSLとの料金差は1000円ほどとしている。 光ファイバーを家まで引き込むには必ず工事が必要となるが、たいていの場合、壁に穴を開けるような工事は行わないようである。光ファイバーはノイズに強いので、エアコンのパイプ穴などを利用して引き込むことが多く、可能であれば電話線などの既存の配管を利用し、たとえ壁に穴を開けることになっても、それほど大がかりな工事にはならないだろう。

光ファイバーの利点

  1. ADSLに比べ速度が上がり下り共に高速である。
  2. 光ファイバーは他の回線に干渉しない。

光ファイバーの欠点

  1. ADSLに比べて費用が高い。
  2. 未だ対応地域が少ない。

誤解を招くM(メガ)

ADSL12Mや24M、それに光ファイバー100Mと言われてはいるが、このMはMB(Mega Byte)ではありません。このMはMBではなくMbpsの事であり、Mbpsのbpsとはbit/secの事で、8bitが1byteである。一般的なPCの容量を示す情報単位はbyteだが、データ通信の単位においてはbitを基本としている。bitはPCが扱う情報の最小単位である。1byteとは半角英数字を一字表す事のできる情報量であり、 光ファイバー100MはByte単位で表すと毎秒12.5MBと言うことになる。8Mは毎秒1MB、12Mは毎秒1.5MBになります。今のADSLサービスの広告はまさしく嘘、大げさ、紛らわしいとJAROに相談されてもおかしく無いと思います。

インターフェース上がり(bit/sec)下り(bit/sec)上がり(byte/sec)下り(byte/sec)
ダイヤルアップ(※1)33.6Kbps56Kbps4.2KB/sec7KB/sec
ISDN(※2)64Kbps64Kbps8KB/sec8KB/sec
ISDN(2回線)128Kbps128Kbps16KB/sec16KB/sec
CATV(※3)128Kbps512Kbps16KB/sec64KB/sec
ADSL 1.5M512Kbps1.5Mbps64KB/sec192KB/sec
ADSL 8M1Mbps8Mbps128KB/sec1MB/sec
ADSL 12M1Mbps12Mbps128KB/sec1.5MB/sec
ADSL 24M1Mbps24Mbps128KB/sec3MB/sec
ADSL 26M1Mbps26Mbps128KB/sec3.25MB/sec
ADSL 40M1Mbps40Mbps128KB/sec5MB/sec
FTTH 10M10Mbps10Mbps1.25MB/sec1.25MB/sec
FTTH 100M100Mbps100Mbps12.5MB/sec12.5MB/sec

こう見ると上りがMBクラスになっているのはFTTH(光ファイバー)だけのようです。 表には携帯電話やPHS、無線インターネット回線は含んでいませんし、CATVは格差が有りすぎます。 ADSL24Mや26M、そして40Mになっても上り速度が1Mbpsのままと8Mの時から進歩がありません。 上り速度も求める場合、FTTHしか無いと言う事でしょうか。

ブロードバンドのこれから

現在最も加入件数が多いのはDSLサービスの1000万件。(2003年12月末) つまりはADSLであるが、ADSLは技術的には今年の春に50Mまで高速化できる事が モデムのチップ・セットメーカーの発表により分かっていたので、今回の40M級のサービスは予測範囲内であった。 しかし、今後の速度の向上に関しては急に倍増するという事は無いと言われている。 技術という物は日々進歩している為、一概には言い切れないとは思う。 それにADSLの40M級のサービスにおいて拡張された周波数域はアマチュア無線の帯域と被っており、干渉による問題も心配されている。 よって今後は高速なデータ通信を安定して提供できる光ファイバーが徐々に占めていくだろう。 総務省では、2005年度にはADSLとFTTHの加入数が逆転するとみているが、逆転はもう少し先になるとの意見が多い。 2004年度のIT政策大綱には国民利用者が地理的格差なくどこにいてもIT利用をできる環境が重要なので、 条件不利地域等における光ファイバーネットワークの全国的な整備の促進等への取り組み重要とあるとあるが、 未だ未整備の地域は多い。この問題についてはNEC、NEC東芝スペースシステム、 JASTの3社による衛星インターネット、下り最大155Mbpsという光ファイバー並みの下り速度を持ち、 地上インフラと同等の月額料金を可能にするという夢のようなインターネットサービスが予定されている。 離島や山間部など問題のある地域では有効だと考えられる。

まとめ

世界最先端のIT国家を目指すにはブロードバンド網の整備以外にもインターネット利用者の世代格差や2000億円程度と言われるインターネットコンテンツ市場の拡大、情報セキュリティ被害が3500億円と推計される企業や個人レベルにおける情報セキュリティ対策、相次ぐ個人情報の流出、知的財産保護など克服すべき問題も多い。 今後次第に浸透していくであろうIPv6や色々と模索されているインターネット2など話題が尽きることが無く、技術に取り残されない素早い対応が必要とされるだろう。